Q&Aコーナー

ここでは,地球惑星科学に関する代表的な質問について,掲載しています。地球や惑星についての質問のある方で,ここで答えが見つからなかった方は
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〒819-0395 福岡市西区元岡744番地
九州大学理学部等事務部学生係
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Q. 地球で生命はどのようにして発生したのですか?

回答者: 奈良岡浩 (有機宇宙地球化学研究分野・教授)

生命は化石の記録から38~35億年前までには地球上に存在していたと考えられています。地球と他の惑星は45億年前に誕生したので,太陽系の歴史のとても早い時期です。このように生命の誕生が古いことは太陽系の他の惑星にも生命が存在する(した)可能性があることを示しています。

地球上の生命にとって重要な要素である代謝(呼吸や光合成のようにエネルギーを得たり,使ったりすること),遺伝(親から子へ,または進化すること),細胞(自己を他者から区別する構造)の役割を担うタンパク質・遺伝子・脂質を構成するアミノ酸・核酸塩基・糖・脂肪酸などはいずれも有機化合物です。宇宙空間または原始地球上に存在した簡単な化合物が反応して,これらの有機化合物が生成し,さらに種々の反応が起こったり,一定の構造が作られるなど組織化されることによって生命は誕生したと考えられています。これを化学進化仮説と言います(まだ証明されたわけではありません)。

現在のところ,水素(H2)・一酸化炭素(CO)・水(H2O)・アンモニア(NH3)・ホルムアルデヒド(HCHO)・シアン化水素(HCN)などが星間分子として,宇宙空間に多く存在することがわかっています。(宇宙は有機化合物で充ち満ちていると言っても過言ではありません。)これらの分子は水中で化学反応することにより,比較的容易にアミノ酸・核酸塩基・糖などを生成します。原始地球上でもこのような反応が進行したと考えられています。また,隕石などによっても地球にもたらされたかもしれません。

しかしながら,アミノ酸・核酸塩基・糖・脂肪酸などがどのように複雑化・組織化し,高度な原始細胞になったかは未だに大きな謎です。また,生命は宇宙において普遍的な存在なのかどうかも分かっていません。宇宙や地球環境でどのように生命が誕生したのかについては,まだまだ研究すべきことが残されています。

Q. 宇宙には地球のように生命が存在する惑星はありますか?

回答者: 関谷実 (惑星系形成進化学研究分野・前教授)

最近,太陽以外の多くの恒星のまわりに惑星があることが分かってきました。地球のように液体の水が表面に存在する惑星は宇宙に多数あると考えられています。表面は凍っていても内部に液体の水が存在する惑星や衛星もあると考えられます。しかし,生命がどのようにして誕生したのかについては現在のところまだ解明されていませんので,水が存在する惑星や衛星において,生物が誕生するかどうかについては,まだ確定的なことは言えない状況です。

Q. 最近の大気の二酸化炭素濃度の急速な上昇に対し,私達の住む地球は大丈夫なのでしょうか?

回答者: 赤木右 (無機生物圏地球化学研究分野・前教授)

地球は私達人間だけでなく,色々な生物が住んでいます。その中で植物と植物プランクトンがしっかりと生きていてくれさえすれば,多分大丈夫でしょう。陸では植物は二酸化炭素を酸素に変える光合成という反応を行なっています。それだけでなく,地球の岩石を二酸化炭素と反応させ溶解し,最終的に海の成分を作る風化という反応にも関わっていることが,最近の研究から分かって来ました。風化によって海に養分が供給されると,植物プランクトンがせっせせっせと酸素を大気に出し,二酸化炭素を身体の有機物として固定し,海底に沈めます。私達の研究により,植物プランクトンの量が増えれば増えるほど,その死骸は海水で互いにくっつき合って大型化し,速いスピードで沈んでいくことが分かったのです。その結果,死骸の中の有機物は分解しにくくなり,効率良く海底へと運べるようになるのです。植物と風化と植物プランクトンの共同作業が私達の住む地球を守ってくれると言えます。しかし,残念ながら,この働きは,私達が期待するほど速くは起こらないでしょう。数千年,数万年といった長い時間が必要です。

(生物が地球の状態を決定する重要な働きをしています。しかし,その働きは意外にも理解されていません。深い研究が必要です。)

Q. 大気の二酸化炭素濃度の増加が地球温暖化の引き金になっていないかもしれないという話を聞きましたが,本当ですか?

回答者: 赤木右 (無機生物圏地球化学研究分野・前教授)

大気の二酸化炭素は地球から宇宙に放射する赤外線を吸収し,地球を毛布の様に暖める効果があります。これを温室効果といいます。空気の二酸化炭素濃度が増えたために,地球温暖化が深刻になる可能性があり心配されています。

地球の長い歴史の中には二酸化炭素濃度が高い時期がありました。最近の100万年間は寒冷な氷河期と温暖な間氷期が繰り返し,繰り返し,起こっていることが分かっています。その間には温度にして2〜4℃,二酸化炭素の濃度にして,180ppmから300ppmの変動があったようです(ppmは0.0001%のこと)。これらのことは南極の氷とそこに閉じ込められた空気を分析することで分かるのですが,その記録を詳しく解析すると,二酸化炭素濃度の上昇よりも温度の上昇が千年ほど先に起こっていることが分かったのです(図)。この結果は次の様に解釈されています。何らかの理由で温度の上昇が起こると,海水に溶解している二酸化炭素が大気に移動します。陸上の土壌の有機物の分解も活発化し,二酸化炭素をもたらすでしょう。これらが,およそ千年かけて大気に蓄積するという仕組みです。

氷の中に閉じ込められている空気の分析値の解釈には,少し注意が必要です。粉雪の状態から氷に変化する時間の間に,その中に含まれる空気は,完全に密封されているわけでなくて,大気中の空気と入れ替わると考えられます。したがって,氷の中に閉じ込められている空気の二酸化炭素濃度は,粉雪が降った年代よりも後の時代の値を示している可能性があります。そこで,空気の年代は,氷の年代からこのズレを補正して求めていますが,ズレは一定であるという保証がありません。さらに,雪が氷に変わった後にも,氷がゆっくりと流動する時にヒビが入り,入れ替わっているかもしれません。これらのことを考えると,下の図の千年程度の差から温度上昇が二酸化炭素濃度の上昇に先行したという結論には,疑問符が拭いきれません。

地球科学者は,温度の上昇によって引き起こされる空気中の二酸化炭素濃度の上昇と二酸化炭素の濃度の上昇によってもたらされる温度の上昇を区別して,理解しようとしています。計算によると,高緯度ほど二酸化炭素濃度の上昇による温度上昇は激しくなるようです。しかし,この様な現象が昔起こったことを示す直接的な証拠がないのです。

(何か氷に閉じ込められた空気以外にすぐれた記録を残しているものを探さなくてはなりません。)

南極のアイスコア(氷柱試料)より復元された気温の変動と大気中の二酸化炭素濃度の変動(Indermühle 他 GRL, 2000)
(画像をクリックで画像のみを表示)

Q. 最近の温暖化に伴う海面上昇はどの程度でしょうか?また,南極やグリーンランドの氷が全部融けると日本はどうなるのでしょうか?

回答者: 中田正夫 (地球内部ダイナミクス研究分野・前教授)

最近地球温暖化に伴う海面上昇がテレビや新聞等で報道されています。上昇量は,全地球平均でほぼ1.5mm/年程度と考えられています。これらの主な原因は,温暖化に伴う海水の膨張と,南極やグリーンランド氷床の融解ですが,それぞれの海面上昇に対する寄与は現在のところよくわかっていません。そのため,人工衛星や現地調査に基づく研究が精力的に進められ,NatureやScience 誌に頻繁に論文が発表されています。もし,南極氷床が完全に消失するとほぼ60mの海面が上昇し,グリーンランド氷床が消失すると7m位海面は上昇します。そうすると日本の主な都市はほぼ水没することになります。

Q. 地震の震源というのは何のことでしょうか?

回答者: 清水洋 (観測地震・火山学研究分野・前教授)

震源とは,文字どおり地震の発生源のことです。地震波は,地下の断層がずれ動くことによって発生しますので,震源は正確には点ではなく,断層の長さ×幅の面積をもちます。マグニチュード7の大地震になると,断層の長さは20~30kmにもなります。地震が発生する時には,断層全体が瞬間的に同時にずれ動くのではなく,一地点で始まったずれ動きが,多くの場合秒速2km以上の速さで断層全体に広がっていくのです。通常,気象庁などから発表される震源は,断層面上で最初にずれ動いた地点のことです。したがって,大きな地震の場合,発表された震源から数十km以上も離れた地点でも,実際は地震の発生源の真上だったということも起こり得るのです。

Q. 地層を調べるとどのくらい昔のことまで分かるのでしょうか?

回答者: 佐野弘好 (地球進化史研究分野・前教授)

最初に大陸が形成されたといわれている,いまから約32億年前から現在までに地球表層近くでおきたこと(環境変動,生物の進化・絶滅など)が分かります。

Q. 高圧実験で地球のどのくらいの深さのことまで分かるのでしょうか?

回答者: 加藤工 (地球惑星物質科学研究分野[現地球内部物質学研究分野]・前教授)

地球は半径およそ6400kmの球ですが,私たちが直接観察できる場所は,西太平洋に位置するマリアナ海溝チャレンジャー海淵の海面下10,900mからヒマラヤ山脈チョモランマの海抜8848mまでのわずか2kmの範囲に限られています。比較的容易な陸上のボーリングでロシア・コラ半島では12kmまで到達したといわれていますが,これでも道程の0.2%にも達していません。日本は海洋掘削船”ちきゅう”によって厚さ5kmの海洋地殻を貫通し上部マントルまで到達する計画を進めています。一方,地質試料には様々な地下深部条件を経験したと思われるものがあります。マグマの上昇に捕えられた捕獲岩,テクトニックな運動によって地表に露出した高圧変成岩,太古のキンバーライト・マグマによってもたらされたダイヤモンドとその中の微小な包有物です。しかし,これらの物質のもたらす記録は,地球史46億年の中での極一部の時間と地域の情報です。

高圧実験は,地震学で求められる地球内部全体の地震波速度から実際の構成物資(岩石や鉱物,化学組成)を知り,その物質の起源と歴史を地球表層の地質情報と総合して理解するために,地球惑星科学の研究領域で行われています。この目的のために開発された高圧実験装置は,物性物理化学,材料開発分野に応用されています。近年では,大型大容量プレス装置によりほぼ1mm角の試料で,地下800kmに相当する圧力およそ30GPa(=30万気圧)で合成,融解実験を行っています。ダイヤモンドアンビルセルと呼ばれる装置では,より微小な数十μm(1μmは0.001mm)の試料で地球中心の圧力330GPaを超える条件も実現しています。ただし,これらのような微小な試料から,その場温度圧力条件での物質の性質を知るためには,従来にない強力な解析手段が不可欠です。そのため,地球惑星科学の高圧物性研究者は,放射光施設のSPring-8高エネルギー加速器研究機構大強度加速器施設などとも応用分析手法の開発で協力関係にあります。

Q. イエローストーンが今世紀中に大噴火すると言うのは本当ですか?もし,大噴火した場合日本への影響はどの程度ありますか?

回答者: 松島健 (地震火山減災科学研究分野・教授)

イエローストーンはアメリカ北西部にある活火山ですね。スーパーボルケーノ(超巨大な火山)とも呼ばれ,過去1800万年ほどの間に噴火を繰り返し,そのたびに大きなカルデラ地形を形成してきました。ここのカルデラの大きさは,日本で有名な阿蘇カルデラの数倍もあります。イエローストーンでは,約7万年前の噴火活動がもっとも最近のもので,その後は活動を終えた火山とも考えられていました。しかし最近の観測技術の発達で,カルデラの中心部が数十cmも隆起や沈降を繰り返していることがわかり,地下に直径10キロメートルにおよぶマグマ溜まりがあると推定されています。

いまのところイエローストーン大噴火を引き起こすような観測データは得られていないようです。しかし今世紀内に大噴火するかどうかはまでは分かりません。一般に火山が大噴火を起こす前には,地震がたくさん発生したり,もっと大きな地殻変動が観測されたり,地温の上昇も見られます。このような前兆の変化は数ヶ月~数年前から徐々に起こり始めますので,きちんと火山調査を続けていれば,大噴火の発生は事前に予知可能と考えています。

もし,大噴火した場合の影響ですが,日本に直接的な被害をおよぼすことはありません。しかし,大量に吹き出した二酸化硫酸が大気の成層圏に吹き上げられて拡散することにより,太陽光線が反射され,地球全体の気温低下につながります。

1815年のインドネシアタンボラ火山の噴火では数年間にわたり,地球全体の平均気温が約0.5度低下したことが知られています。もしイエローストーンが大噴火を起こせば,さらに大きな気温低下が長年にわたって続くことになると考えられています。

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ここでは,地球惑星科学に関する代表的な質問について,掲載しています。地球や惑星についての質問のある方で,ここで答えが見つからなかった方は
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なお入学・入試に関するお問い合わせは
〒819-0395 福岡市西区元岡744番地
九州大学理学部等事務部学生係
TEL.092-802-4014
あてにお願いします。

Q. 地球で生命はどのようにして発生したのですか?

回答者: 奈良岡浩 (有機宇宙地球化学研究分野・教授)

生命は化石の記録から38~35億年前までには地球上に存在していたと考えられています。地球と他の惑星は45億年前に誕生したので,太陽系の歴史のとても早い時期です。このように生命の誕生が古いことは太陽系の他の惑星にも生命が存在する(した)可能性があることを示しています。

地球上の生命にとって重要な要素である代謝(呼吸や光合成のようにエネルギーを得たり,使ったりすること),遺伝(親から子へ,または進化すること),細胞(自己を他者から区別する構造)の役割を担うタンパク質・遺伝子・脂質を構成するアミノ酸・核酸塩基・糖・脂肪酸などはいずれも有機化合物です。宇宙空間または原始地球上に存在した簡単な化合物が反応して,これらの有機化合物が生成し,さらに種々の反応が起こったり,一定の構造が作られるなど組織化されることによって生命は誕生したと考えられています。これを化学進化仮説と言います(まだ証明されたわけではありません)。

現在のところ,水素(H2)・一酸化炭素(CO)・水(H2O)・アンモニア(NH3)・ホルムアルデヒド(HCHO)・シアン化水素(HCN)などが星間分子として,宇宙空間に多く存在することがわかっています。(宇宙は有機化合物で充ち満ちていると言っても過言ではありません。)これらの分子は水中で化学反応することにより,比較的容易にアミノ酸・核酸塩基・糖などを生成します。原始地球上でもこのような反応が進行したと考えられています。また,隕石などによっても地球にもたらされたかもしれません。

しかしながら,アミノ酸・核酸塩基・糖・脂肪酸などがどのように複雑化・組織化し,高度な原始細胞になったかは未だに大きな謎です。また,生命は宇宙において普遍的な存在なのかどうかも分かっていません。宇宙や地球環境でどのように生命が誕生したのかについては,まだまだ研究すべきことが残されています。

Q. 宇宙には地球のように生命が存在する惑星はありますか?

回答者: 関谷実 (惑星系形成進化学研究分野・前教授)

最近,太陽以外の多くの恒星のまわりに惑星があることが分かってきました。地球のように液体の水が表面に存在する惑星は宇宙に多数あると考えられています。表面は凍っていても内部に液体の水が存在する惑星や衛星もあると考えられます。しかし,生命がどのようにして誕生したのかについては現在のところまだ解明されていませんので,水が存在する惑星や衛星において,生物が誕生するかどうかについては,まだ確定的なことは言えない状況です。

Q. 最近の大気の二酸化炭素濃度の急速な上昇に対し,私達の住む地球は大丈夫なのでしょうか?

回答者: 赤木右 (無機生物圏地球化学研究分野・前教授)

地球は私達人間だけでなく,色々な生物が住んでいます。その中で植物と植物プランクトンがしっかりと生きていてくれさえすれば,多分大丈夫でしょう。陸では植物は二酸化炭素を酸素に変える光合成という反応を行なっています。それだけでなく,地球の岩石を二酸化炭素と反応させ溶解し,最終的に海の成分を作る風化という反応にも関わっていることが,最近の研究から分かって来ました。風化によって海に養分が供給されると,植物プランクトンがせっせせっせと酸素を大気に出し,二酸化炭素を身体の有機物として固定し,海底に沈めます。私達の研究により,植物プランクトンの量が増えれば増えるほど,その死骸は海水で互いにくっつき合って大型化し,速いスピードで沈んでいくことが分かったのです。その結果,死骸の中の有機物は分解しにくくなり,効率良く海底へと運べるようになるのです。植物と風化と植物プランクトンの共同作業が私達の住む地球を守ってくれると言えます。しかし,残念ながら,この働きは,私達が期待するほど速くは起こらないでしょう。数千年,数万年といった長い時間が必要です。

(生物が地球の状態を決定する重要な働きをしています。しかし,その働きは意外にも理解されていません。深い研究が必要です。)

Q. 大気の二酸化炭素濃度の増加が地球温暖化の引き金になっていないかもしれないという話を聞きましたが,本当ですか?

回答者: 赤木右 (無機生物圏地球化学研究分野・前教授)

大気の二酸化炭素は地球から宇宙に放射する赤外線を吸収し,地球を毛布の様に暖める効果があります。これを温室効果といいます。空気の二酸化炭素濃度が増えたために,地球温暖化が深刻になる可能性があり心配されています。

地球の長い歴史の中には二酸化炭素濃度が高い時期がありました。最近の100万年間は寒冷な氷河期と温暖な間氷期が繰り返し,繰り返し,起こっていることが分かっています。その間には温度にして2〜4℃,二酸化炭素の濃度にして,180ppmから300ppmの変動があったようです(ppmは0.0001%のこと)。これらのことは南極の氷とそこに閉じ込められた空気を分析することで分かるのですが,その記録を詳しく解析すると,二酸化炭素濃度の上昇よりも温度の上昇が千年ほど先に起こっていることが分かったのです(図)。この結果は次の様に解釈されています。何らかの理由で温度の上昇が起こると,海水に溶解している二酸化炭素が大気に移動します。陸上の土壌の有機物の分解も活発化し,二酸化炭素をもたらすでしょう。これらが,およそ千年かけて大気に蓄積するという仕組みです。

氷の中に閉じ込められている空気の分析値の解釈には,少し注意が必要です。粉雪の状態から氷に変化する時間の間に,その中に含まれる空気は,完全に密封されているわけでなくて,大気中の空気と入れ替わると考えられます。したがって,氷の中に閉じ込められている空気の二酸化炭素濃度は,粉雪が降った年代よりも後の時代の値を示している可能性があります。そこで,空気の年代は,氷の年代からこのズレを補正して求めていますが,ズレは一定であるという保証がありません。さらに,雪が氷に変わった後にも,氷がゆっくりと流動する時にヒビが入り,入れ替わっているかもしれません。これらのことを考えると,下の図の千年程度の差から温度上昇が二酸化炭素濃度の上昇に先行したという結論には,疑問符が拭いきれません。

地球科学者は,温度の上昇によって引き起こされる空気中の二酸化炭素濃度の上昇と二酸化炭素の濃度の上昇によってもたらされる温度の上昇を区別して,理解しようとしています。計算によると,高緯度ほど二酸化炭素濃度の上昇による温度上昇は激しくなるようです。しかし,この様な現象が昔起こったことを示す直接的な証拠がないのです。

(何か氷に閉じ込められた空気以外にすぐれた記録を残しているものを探さなくてはなりません。)

南極のアイスコア(氷柱試料)より復元された気温の変動と大気中の二酸化炭素濃度の変動(Indermühle 他 GRL, 2000)
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Q. 最近の温暖化に伴う海面上昇はどの程度でしょうか?また,南極やグリーンランドの氷が全部融けると日本はどうなるのでしょうか?

回答者: 中田正夫 (地球内部ダイナミクス研究分野・前教授)

最近地球温暖化に伴う海面上昇がテレビや新聞等で報道されています。上昇量は,全地球平均でほぼ1.5mm/年程度と考えられています。これらの主な原因は,温暖化に伴う海水の膨張と,南極やグリーンランド氷床の融解ですが,それぞれの海面上昇に対する寄与は現在のところよくわかっていません。そのため,人工衛星や現地調査に基づく研究が精力的に進められ,NatureやScience 誌に頻繁に論文が発表されています。もし,南極氷床が完全に消失するとほぼ60mの海面が上昇し,グリーンランド氷床が消失すると7m位海面は上昇します。そうすると日本の主な都市はほぼ水没することになります。

Q. 地震の震源というのは何のことでしょうか?

回答者: 清水洋 (観測地震・火山学研究分野・前教授)

震源とは,文字どおり地震の発生源のことです。地震波は,地下の断層がずれ動くことによって発生しますので,震源は正確には点ではなく,断層の長さ×幅の面積をもちます。マグニチュード7の大地震になると,断層の長さは20~30kmにもなります。地震が発生する時には,断層全体が瞬間的に同時にずれ動くのではなく,一地点で始まったずれ動きが,多くの場合秒速2km以上の速さで断層全体に広がっていくのです。通常,気象庁などから発表される震源は,断層面上で最初にずれ動いた地点のことです。したがって,大きな地震の場合,発表された震源から数十km以上も離れた地点でも,実際は地震の発生源の真上だったということも起こり得るのです。

Q. 地層を調べるとどのくらい昔のことまで分かるのでしょうか?

回答者: 佐野弘好 (地球進化史研究分野・前教授)

最初に大陸が形成されたといわれている,いまから約32億年前から現在までに地球表層近くでおきたこと(環境変動,生物の進化・絶滅など)が分かります。

Q. 高圧実験で地球のどのくらいの深さのことまで分かるのでしょうか?

回答者: 加藤工 (地球惑星物質科学研究分野[現地球内部物質学研究分野]・前教授)

地球は半径およそ6400kmの球ですが,私たちが直接観察できる場所は,西太平洋に位置するマリアナ海溝チャレンジャー海淵の海面下10,900mからヒマラヤ山脈チョモランマの海抜8848mまでのわずか2kmの範囲に限られています。比較的容易な陸上のボーリングでロシア・コラ半島では12kmまで到達したといわれていますが,これでも道程の0.2%にも達していません。日本は海洋掘削船”ちきゅう”によって厚さ5kmの海洋地殻を貫通し上部マントルまで到達する計画を進めています。一方,地質試料には様々な地下深部条件を経験したと思われるものがあります。マグマの上昇に捕えられた捕獲岩,テクトニックな運動によって地表に露出した高圧変成岩,太古のキンバーライト・マグマによってもたらされたダイヤモンドとその中の微小な包有物です。しかし,これらの物質のもたらす記録は,地球史46億年の中での極一部の時間と地域の情報です。

高圧実験は,地震学で求められる地球内部全体の地震波速度から実際の構成物資(岩石や鉱物,化学組成)を知り,その物質の起源と歴史を地球表層の地質情報と総合して理解するために,地球惑星科学の研究領域で行われています。この目的のために開発された高圧実験装置は,物性物理化学,材料開発分野に応用されています。近年では,大型大容量プレス装置によりほぼ1mm角の試料で,地下800kmに相当する圧力およそ30GPa(=30万気圧)で合成,融解実験を行っています。ダイヤモンドアンビルセルと呼ばれる装置では,より微小な数十μm(1μmは0.001mm)の試料で地球中心の圧力330GPaを超える条件も実現しています。ただし,これらのような微小な試料から,その場温度圧力条件での物質の性質を知るためには,従来にない強力な解析手段が不可欠です。そのため,地球惑星科学の高圧物性研究者は,放射光施設のSPring-8高エネルギー加速器研究機構大強度加速器施設などとも応用分析手法の開発で協力関係にあります。

Q. イエローストーンが今世紀中に大噴火すると言うのは本当ですか?もし,大噴火した場合日本への影響はどの程度ありますか?

回答者: 松島健 (地震火山減災科学研究分野・教授)

イエローストーンはアメリカ北西部にある活火山ですね。スーパーボルケーノ(超巨大な火山)とも呼ばれ,過去1800万年ほどの間に噴火を繰り返し,そのたびに大きなカルデラ地形を形成してきました。ここのカルデラの大きさは,日本で有名な阿蘇カルデラの数倍もあります。イエローストーンでは,約7万年前の噴火活動がもっとも最近のもので,その後は活動を終えた火山とも考えられていました。しかし最近の観測技術の発達で,カルデラの中心部が数十cmも隆起や沈降を繰り返していることがわかり,地下に直径10キロメートルにおよぶマグマ溜まりがあると推定されています。

いまのところイエローストーン大噴火を引き起こすような観測データは得られていないようです。しかし今世紀内に大噴火するかどうかはまでは分かりません。一般に火山が大噴火を起こす前には,地震がたくさん発生したり,もっと大きな地殻変動が観測されたり,地温の上昇も見られます。このような前兆の変化は数ヶ月~数年前から徐々に起こり始めますので,きちんと火山調査を続けていれば,大噴火の発生は事前に予知可能と考えています。

もし,大噴火した場合の影響ですが,日本に直接的な被害をおよぼすことはありません。しかし,大量に吹き出した二酸化硫酸が大気の成層圏に吹き上げられて拡散することにより,太陽光線が反射され,地球全体の気温低下につながります。

1815年のインドネシアタンボラ火山の噴火では数年間にわたり,地球全体の平均気温が約0.5度低下したことが知られています。もしイエローストーンが大噴火を起こせば,さらに大きな気温低下が長年にわたって続くことになると考えられています。